渋谷区の子育て支援アプリ…個人情報保護は大丈夫!? ~第66回自治体学校in神奈川に参加しました 田中まさや議員が、区政リポート8月8日号を発行しました

人権子ども・子育て・保育安全・安心活動報告渋谷区

第66回自治体学校in神奈川に参加しました

渋谷区の子育て支援アプリ…個人情報保護は大丈夫!?

第66回自治体学校が7月20、21日、神奈川県内で開催され、日本共産党区議団全員で参加しました。2日目の分科会で、私は「保育SaaSの現状と問題点~自治体における『個人情報の適正な取扱い』へ向けて」に参加しました。

SaaS(Software as a Service)とは、インターネットを通じて、ソフトウエアを提供する事業者のクラウドサーバーに接続し、サービスを利用するものです。

23区では、9割が保育業務支援システムを、7割が電子版母子手帳を利用していますが、これらがSaaSです。渋谷区では、保育園の事務作業全般の支援や保護者との連絡などに使われる「コドモン」とデジタル版母子手帳「母子モ」という2つのアプリを利用しています。

どちらも、自治体がアプリ提供事業者(ICT企業)と契約し、そのうえで保護者はアプリ提供事業者と個別に利用契約を結ぶことになります。つまり、保育施設や保健所との間に、「ICT企業」が介在し、個人情報は、このICT企業が管理することになります。

保護者や保育園では、利便性が向上したとの声もありますが、様々な課題も明らかになりました。

本稿は、分科会の稲葉多喜生講師の講演を参考にしたものです。

 

自治体が、子どもの個人情報収集と利活用について、説明せず「合意」する仕組みを放置してよいのか

子育て支援アプリの利用規約の「同意」は、利用規約を読まなくても「同意」できるように設計されており、明示的に同意を得ているとは言いきれません。自治体が契約して住民に利用させているのですから、アプリの利用によって、個人情報の収集と利活用、場合によっては営利活動に利用されることを自治体の責任で丁寧に保護者に説明し、同意を得る必要があります。

また同意が得られなかった場合も、同等の質のサービスを受けられる権利を保障すべきです。

 

自治体が、子育て支援や保育の向上について責任を果たせなくなる

例えばコドモンは、保育園の業務を支援し、保育者の文書起案を補助しますが、保育者が子どもについて考察するプロセスを省略することになります。

実際、導入している保育現場では、子どもの変化について、保育士同士の集団的検討がなくなり専門的経験の蓄積がしにくくなっているとの訴えもありました。

これでは、自治体として保育や子育て支援についてICT企業任せになり、質の向上に責任を果たせなくなりかねません。

また、議会は、民間企業の事業だからという理由でチェックできなくなり、結局、住民の声が届かなくなります。

 

データ主権の確立、住民と自治体が主体に

子育てSaaS普及の背景に、個人情報の保護や地方自治を置き去りにして、膨大な子どもの情報をビッグデータにしてICT企業の利益を拡大しようとする財界と政府の新自由主義政策があります。

子どもの個人情報は、データ主体である子どものものであり、勝手に利活用することは許されません。

EUは、2018年に、「一般データ保護規則(GDPR)」を制定し、ICT企業が市民の合意なく、データ収集と活用することを厳しく規制しています。また、データ主体が求めれば、必要な情報の提供を受け、自己のデータの取り扱いに関する情報提供を受ける権利を保障しています。(個人情報コントロール権)

日本でも、EU水準の個人情報のコントロール権を保障すべきです。自治体としても、SaaS契約を結ぶ際に、個人情報の保護について独自の利用規約を盛り込むべきではないでしょうか。また、自治体としてSaaSを導入しても、保育や子育ての質をどう確保し、向上させるのかを職場などで議論することが求められます。

[子育て支援アプリの主な課題]

1.個人情報の収集や利活用についての説明が十分でない

※「利用規約」に本当に同意して利用しているか?

公正取引委員会の調査では、「利用規約をすべて読んでいる」は、5.5%。本当に利用規約に「同意」しているといえるのでしょうか。

 

2.保護者は、アプリの利用を合意せざるを得ない

コドモンの場合、保育園から利用を進められれば、拒否しにくい。拒否した場合に、利用している保護者と同等なサーヒスが受けられるか不明。

 

3.個人情報が、ICT企業の儲けのために利活用される可能性がある

【コドモン利用規約】第7条

第3項「当社は、お子様またはお客様の個人情報を、以下の目的で利用することがあります。」

第5項「当社ウエブサイト等や当社の販促物、イベント等において児童の教育や育成にかかわる情報として公開する可能性があります。」

 

【母子モ利用規約】第7条の第2項

「…取得した各情報は、当社サービスの商品開発、機能評価・改善、マーケッティング分析、広告配信、その他の当社の事業目的のために、…利用」

 

4.自治体が、コドモンを解約すると、コドモンが集めた保育データは、次の事業者には引き継げない。

 

5.自治体が保育園の質の向上や子育て支援について、主体的な役割を果たせなくなる。保育や子育ての水準が、ICT企業に左右されることに…。

以上

区政リポート2024.8.8docx